毎日クリニックでピロリ菌の除菌療法を行っておりますが,処方している医師(私のこと)は除菌療法のことをどこまで理解して患者様に説明して処方を行っているのだろう?と自問することが多いです.
と言いますのも,ピロリ菌の除菌がどのように有益であるか,つまり胃癌を抑制するのか,慢性胃炎を改善するのかについての論文報告が実にまちまちであるからです.それはおそらく各研究によって対象となる患者様の背景(年齢,人種,除菌時の胃炎の状態などなど)が異なるからだと思っています.
Gastroenterologyの8月号からは興味深い2つの論文が報告されているので紹介したいと思います.(Gastroenterology2025; 169からの2報告です)
まず1報目は北欧を中心とした5か国からの研究結果です.ピロリ菌を除菌するとその後は次第に胃癌の発生率が減少し,除菌から11年目には対象となる背景人口と同等まで低下するというものです.ただ,この報告には噴門部胃癌というピロリ菌とは関連の少ない胃癌が対象から外れており,その点は気になるところです.
2報目はお隣の韓国からの興味深い(同じ東アジアでピロリ菌感染率が高いので)報告です.こちらは胃癌の発生率と死亡率を年齢別にみており,70歳を超えても,80歳以上でも除菌した方は有意に胃癌の発生も死亡も減少するという報告です.ただ,考察にはだからと言って除菌開始を遅らせてもいいってことじゃないよ!(除菌は早くね!), と著者から念を押されていました.
人生100年時代と言われます.体調に合わせて,ご高齢の方も除菌を考えてもいいかもしれません.
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私は内視鏡,消化器病を専門にしています.学べば学ぶほど,内視鏡検査は難しく,そして見落としも多い不十分な検査だと思うようになっています.当院では胃カメラも大腸カメラも,そして胸部X線写真もすべてAIを併用して少しでもそういったことのないように努力しています.